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guest talkゲストトーク

モルトベーネからビューティーエクスペリエンスへ

株式会社ビューティーエクスペリエンス 代表取締役社長 福井敏浩 × SAMURAI代表 クリエイティブディレクター 佐藤可士和

2015年4月、株式会社モルトベーネは株式会社ビューティーエクスペリエンスへと社名変更しました。今回のブランディングに携わっていただいたアートディレクター/クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏に、プロジェクトがスタートした約一年半前を振り返りながら改めてお話を伺いました。

――社名変更は想定外

福井
改めて、今回は社名変更からロゴ、その他諸々のブランディングについてご協力いただき本当にありがとうございました。
佐藤
こちらこそ、ありがとうございました。今思い返すと一年半前はそもそも社名を変更する予定じゃなかったですよね。
福井
最初はそうでしたね。確か創業40周年記念のロゴデザインをお願いしたのがスタートでしたよね。
佐藤
はい。もともと社名を変更するという前提ではなかったのですが、福井さんとお話をしていく中で、今後の発展を視野に入れて考えると、もしかしたら社名を新しくしたほうがいいんじゃないですかというご提案をさせていただきました。
福井
そうですね。ちょうど40周年というのもありましたし、私自身、社長に就任してちょうど15年目というのもあって。今までは父親のスーツを着てやっていたようなところがあったんですけど。そろそろ作り直したほうがいいかな、というちょうど良いタイミングでもあったんですね。
佐藤
ええ。タイミングってありますよね。
福井さんが今後、会社やブランドをどのように展開していきたいかについて、本当に思っていることを掴もうとヒアリングを重ねさせていただきました。そこが掴めないとビューティーエクスペリエンスという名前は絶対に生まれてこなかったですね。福井さんの思いを共有することが一番難しくて一番大事なことでもある。だからお話を何度も伺ったんですよね。
福井
そうですね。何度か回を重ねてお話させていただきましたよね。
佐藤
はい。しかもそういう打ち合わせは、例えば1回あたり10時間やっても駄目なんですよ。それよりも1時間を10回とか2時間を5回とか、回数を重ねたほうがいい。
その人との信頼関係を徐々に築く中での対話であり、やっぱり初対面の人にいきなり全部話していただくというのは無理ですし。
福井
はい、確かに。私自身、佐藤さんとお会いするたびに信頼関係が深まってお話しやすくなったという自覚もあります。
佐藤
ありがとうございます。それに、同じ話を何回もしてもいいんですよ。「この間も聞きましたけど」って言って。
福井
何回も?そういうものなんですか?
佐藤
そうなんです。質問されているほうは「この間も言ったと思うんですけど」という前置きでしゃべるのですが、でも以前話してくれたこととは少し違ったりするんですよね。
福井
深さが変わったりとか?
佐藤
はい。何度も話しているうちにご自分の中でも整理されていくんですね。人に対してしゃべるって、情報を自分の中できちんと組み立てないとできないものです。そういう意味で何回も繰り返すと、自分は本当にこうやりたかったんだというのが固まっていきます。カウンセリングじゃないですが、いろいろと答えるというプロセスを綴ると徐々に考えが整理されていくんですよね。
聞いているほうは、「結局何がやりたいのか」ということを聞いているだけなのですが、例えば突然会って「何がやりたいんですか?」と聞かれても、ぱっとは答えられないですよね。ですから、こういうのはどうですか?ああいうのはどうですか?というふうに適切なタイミングでガイドを提示しながら進めていく。これを重ねていると、霧が晴れていくようにだんだん掴めてくるんです。
福井
なるほど。
佐藤
ですから、そういう意味では、このプロセスは一番こだわったところですね。

――ストーリーのあるロゴに

福井
新しくデザインしていただいたロゴについて、形そのものとして、非常に当社のことを表している、まさしくアイコンになっていると思うんです。このあたりのこだわりを改めてお伺いできますか。
佐藤
そうですね。見た目のデザインも美しくないと新しい美の体験を提供する会社には見えないので、その点はすごく考えました。フィロソフィーがきちんと表現できているかということも重要です。このロゴは漢字の「美」をモディファイしたものなんです。
福井
初めて見せていただいたときは、デザイン的なモチーフなのかなと思って。まさか漢字の「美」だとは思わなかったですね。驚きました!
佐藤
そうですね。そういうバックストーリーは社員の方にとってはすごく大事なんですよね。例えば福井さんが毎年入社式で新入社員の方々に向けてお話するとか、そういうインナーに対するブランディングもすごく重要な活動だと思います。
福井
そうですよね。
佐藤
そのときにふと新入社員から「どうしてこのマークなんですか?」と聞かれたときに、きちんと答えられるということが重要です。「なんとなくかっこいいから」だとやっぱり説得力がないというか。個人の主観になってしまうので。
福井
確かに(笑) 「僕はかっこいいとは思わないんですけど」なんて言われてしまうと返す言葉がないですよね(笑)
佐藤
ええ(笑) そこにストーリーが全部入って初めて会社のロゴとして成り立っていると言えるんです。だからすごく時間がかかるんですよね。むしろきちんと時間をかけて作業するべきと言った方が正しいかもしれません。でも、時間があれば何万通りも作れちゃうんですよ。むしろその中から選ぶことが一番難しいんですよね。そして選ぶためには、ストーリーやコンセプトが重要になってくる。これがしっかり構築できていないと、判断の軸がないので社名も選べないし、マークも選べないし、色も選べないでしょう。だからこそそこを作っていくことがすごく重要なんですよね。特に会社のマークは長く使うものなので、核となるコンセプトをきっちりと構築していかないといけない。
福井
そうですね。
佐藤
僕もいろいろな企業のブランディングのお手伝いをさせていただいていますが、最短でも一年ぐらいはかかります。そうすると周りからは一年間デザインしているように思われがちですが、そういうわけではありません。具体的に手を動かしている期間が一年間なのではなくて、その企業の本質をきちんと掴んで、コンセプトやブランドストーリーを構築し、そこから社会に対していろいろと発信していって、プロジェクトが形になるまでにそのくらいの期間がかかるんですよね。
福井
確かにそうですね。前半のお打ち合わせはほとんどそういった考え方やストーリーについてでしたもんね。私自身もその過程で、これから当社をどうしていくべきなのかということが改めて明確になったというか、自分の中での気づきがたくさんありました。

――他にはないコーポレートカラーを

福井
ロゴの色についても、なかなか他にはない色で、すごく気に入っています。この点についてもいろいろと話し合いましたよね。
佐藤
そうですね。色って意外と難しいというか、ロゴってどんな色でも意外と成立してしまうんですよ。だからやっぱり意志がないと決められない。例えば今治タオルですと、今治の恵まれた自然「太陽」「海」「空」「水」を表す赤、青、白を組み合わせています。
福井
そうですね。ビューティーエクスペリエンス独自の、何かユニークネスが欲しいってずっと思ってました。
佐藤
そうすると赤、青、黄じゃないなと。これらの色はある意味一般的な色でしょう。日本企業のロゴで一番多い色はざっくり言えば赤とか紺や青、もしくはグリーンとかですよね。
意志があればもちろんそれでもいいのです。でも、ビューティーエクスペリエンスは違うなと感じました。それでは福井さんの希望されているユニークネスは表現できないと思いました。
僕自身、紫のロゴをデザインしたのは初めてです。
福井
そうなんですね。
佐藤
はい。でもそれは福井さんにそういう意志があったからこそ、この紫に行き着いたんです。
福井
そうですね。
佐藤
会社の名前を決めたりマークを決めたりするというのは非常に大きなことですから、当然慎重になりますよね。次の50年のための新しいシンボルになるわけですから。
福井
もちろん、末永く活用させていただきます。本日はありがとうございました。

佐藤可士和 氏
アートディレクター / クリエイティブディレクター

1965年 東京生まれ。
博報堂を経て「SAMURAI」設立。主な仕事に国立新美術館のシンボルマークデザイン、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブンジャパン、今治タオルのブランドクリエイティブディレクション、「カップヌードルミュージアム」「ふじようちえん」のトータルプロデュースなど。毎日デザイン賞、東京ADCグランプリほか多数受賞。慶應義塾大学特別招聘教授、多摩美術大学客員教授。著書はべストセラー「佐藤可士和の超整理術」(日本経済新聞出版社)ほか。http://kashiwasato.com/

佐藤可士和 氏