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guest talkゲストトーク

デザインの力を経営に取り入れ、社員全員の想いをひとつにしたい

株式会社ビューティーエクスペリエンス 代表取締役社長 福井 敏浩 × SAMURAI代表 クリエイティブディレクター 佐藤可士和

創業40周年の2015年に社名とロゴを刷新、新しいスタートを切った株式会社ビューティーエクスペリエンスは、その後も様々な変化を遂げました。今回は引き続きブランディングに携わっていただいている佐藤可士和さんに、バリュー作り、オフィスやスタジオのリニューアル、今後の目標などについて、熱いトークをしていただきました。

――本当に使える、毎日触れられるバリューが大事

福井
社名とロゴを変更してから早いもので3年が経ちました。今まで私たちがやってきたことと今後やりたいことをミッション(使命)にまとめ、それを縮めたものを社名にし、Vision(ビジネスのあるべき姿)とそれを実現させるためのValue(行動指針)をここ1年くらいで整えました。
佐藤
そうですね。bex wayいいものができたと思います。社名変更からオフィス、スタジオ、bex way、など着々とプロジェクトが進みましたね。
福井
うちは新卒社員も多いですが中途で入ってくるプロフェッショナル人材も多く、そういう人が何を基準に行動すれば評価されるのかというのがわかりにくかった。なので、どういう基準や価値観で行動すればいいのかを言語化しようという話になったんです。
佐藤
僕は福井さんが思い描いているビューティーエクスペリエンス像を色々なメディアを使って可視化する作業をしてきました。中でも理念作りは難しく、いわゆるMVVなどはついつい小難しくなってしまい、せっかく作ったのに社員は殆んど読んでくれないなんていうケースも多いと思います。
福井
なるほど。
佐藤
僕はもっと本当に使える経営の道具みたいな物のほうがいいと思い、冊子もカジュアルなものにして、コストもそんなにかけないで作るとか。そういうことも色々お話しながらやっていきましたね。bex Valueはいわゆる昔のCIではなく、本当に使っていける物ものというイメージです。
福井
お陰様で当社ではすごく活用しています。会議室や各支店のオフィスにも掲げていますし、いつでもみられるよう、社員にはカードみたいなものを持たせています。
             
佐藤
昔はまずそういうものがなかったですよね。でも、身近にパッと見られるとか、毎日の行動の中でそういうものに触れられるということが大事だと思うんです。立派な会議室だけに飾ってあるとか、ぶ厚い本になって置いてあるとかではダメで、もっとカジュアルにというか、接しやすく身近にできたというのはすごく大事なことだと思っています。
福井
社員もbex VisionやValueを念頭に置いてプレゼンしています。みんなの共通の認識になってきました。
             
佐藤
今回は“考えや行動をデザインしていく”ことをしました。経産省が「デザイン経営宣言」を今年の5月に出しましたが、そこで発表されたように、デザインの力を経営に取り入れていくことが本当に求められる時代になったと思います。

――スペースブランディングで企業価値を高める

福井
福岡スタジオのデザインもいいですね。
佐藤
東京と名古屋のスタジオを先行してオープンしてきましたが、福岡はまず物件そのものがすごく良かったです。立地もいいですし、ビルも新しく、箱の形もいい。物件にパワーがあるので、変にあれこれ変えるよりも場の力を活かそうと思いました。その中でビューティーエクスペリエンスらしさをどう出していくべきか。東京も名古屋もかなりインパクトのあるものになりましたから、それとはまた違ったインパクトを出したいなと。その活動そのものがある意味ビューティーエクスペリエンスのひとつのコンテンツになっていくと考えています。同じブランドフィロソフィーでありながら、毎回新鮮な空間をいかにして作るかを考え、社名とロゴを実際の空間にアートとして落とし込んでいっているわけです。使えるアート、機能するアートですね。新しい美の体験を作っていく会社だから、来られる方にワクワクしてもらい、新鮮な体験を提供することが僕の使命だと思いました。自分で言うのも何ですが、企業ブランディングとしてはかなりの最先端事例です。
福井
そうですよね。うれしいです。
佐藤
目立つ所に大きくロゴを入れると、撮影やイベントの時に強すぎちゃうかな?とか非常に気を使っています。そういうことに対してリテラシーの高い方が来られるわけですから、自分たちのブランドバリューを押し付けず、アートに変換して伝えていくことにこだわりました。
福井
ちなみに福岡スタジオは照明による演出が鍵になっているんですね。
佐藤
そうですね、基本的には自然光を取り入れ、壁の代わりに全面ミラーにし、床まで白いとまぶしいので今回は床をフローリングにし、ライトは上部にブランドカラーをはじめ様々な色のパターンが展開するようプログラミングしました。新しい価値を提供しようとしているわけですから、シンプルながらライトをはじめ殆どここのためにゼロからデザインしています。
福井
なんか落ち着きますよね。ここで仕事をしたくなります。
佐藤
イベントをやっていない時はオフィスとしても、打ち合わせスペースとしても活用できます。
福井
イベントにもよさそうですよね。新規のお客様からの引き合いも来ると思うんですよ。楽しく撮影できそうです。
佐藤
早くここでのイベントを見てみたいですね。夜は照明が映えますから、夜のイベントもよさそうです。
福井
おしゃれなカフェみたいな感じですから、街を歩く人が間違えて入ってきそうですね(笑)。私はてっきり東京と同じ感じになるのかなと思ってました。全然違いましたね(笑)。さすがです。
佐藤
次は何をしてくれるんだろうという期待感が大事で、それが企業の勢いだったりします。ハイブランドも、主要な旗艦店は同じデザインのものを絶対作らないんですよ。
福井
そう言われてみればそうですね。
佐藤
あえて各地で違う建築家が手掛けたりしています。それがブランドを表現する大事なコンテンツになるんです。違うからこそ行ってみたくなるというか。銀座シックスやミッドタウン日比谷も“東京のそこにしかない店作り”にすごく力を入れてやっていますよね。そうしないとブランド価値の鮮度が保てないんです。わざわざ行く理由がない。空間にはそういう力があって、インスタに上げて拡散したくなるようにどうやって作るかが鍵になってきます。
福井
我々のスタジオはまさしくインスタ映えしますね。
佐藤
まさにスペースブランディングだと思います。
福井
東京や名古屋のスタジオにお越しになった美容師様たちも、世界観がすごいですね、他メーカーさんとは違いますね、と言ってくださっています。ただ、自然光が入らないなどの問題もあり、名古屋、福岡とだんだん進化し、福岡は全部改善されています。今年の5月には研究所も移転、リニューアルしました。ゴールは工場、と思っています。工場もだいぶ老朽化していますので、いずれは建て替えなければなりません。社員全員が思いをひとつにできるデザインにしていく予定です。
佐藤
最近は工場も大事なメディアのひとつです。一般向きには工場見学はとても人気のコンテンツですし、B to B的には会社の信用というか、商品をこういう環境でこのように品質管理もしていますという信頼のメッセージになります。昔みたいに工場や倉庫はバックヤードだから、別に見せるように作らなくていいという考えではなくなりました。工場も研究所もオフィスもスタジオも一緒というか、全てにおいて配慮していますというのがその会社の姿勢になります。この会社は信用できるなとか、ここで働いてみたいなとか、人材を集める意味でもスペースブランディングは重要だと思います。

――“人に自慢したくなる会社”に

福井
社名も拠点も変わっているので、ある意味、社員にとっては転職したみたいな感覚なんじゃないかと(笑)。とはいえ行動指針が定まったことで、社員としても自分の会社がこういう会社だというのを明確に認識できるようになり、社外の人に伝えやすくなったのではないでしょうか。「人に自慢したくなります」という声を聞いたことがありますね。
佐藤
自慢したくなるってとても大事ですね、素晴らしいことです。
福井
実際、私自身も人に説明しやすくなりました。以前は「なぜモルトベーネなんですか?」と聞かれても正直説明しづらかった。「ビューティーエクスペリエンス」とはミッションを集約したものですから、そもそも提供したい価値がそれなんです、と、一連して全部説明できます。新卒向けの会社説明会で話をしてみてそう思いました。
佐藤
僕も社員の方に浸透しているようですごくうれしいです。働いている時間って人生の中でけっこう長いじゃないですか。その空間の環境ってすごく大事だと思うんです。そこを福井さんにご理解いただいて、実際に色々変更したことを社員の方が喜んでくれて、会社がいい方向に行くなら、それはもう最高です。こういう会社がたくさん増えればいいなと思います。
福井
今後は短期的には大阪スタジオのリニューアル、中期的には工場のリニューアルが目標です。東京にもう1個拠点があってもいいかなと思っています。表参道とか銀座とか、スタジオとショールームを兼ねたような感じで。
佐藤
すごくユニークな発想ですね。多目的スペースを持ってそこで色々活動する企業って新しいと思います。スペースブランディングの最先端です。
福井
直接美容師様とコミュニケーションを取る機会を増やすことも目的のひとつです。 ショップもやって旗艦店みたいな感じにするとか?
佐藤
カフェとか「食」を一緒に体験として取り入れていくのもいいですね。
福井
面白いかもしれないですね。
佐藤
カフェをやると一般の方に対しての窓口になるので、ビューティーエクスペリエンスという会社自体が知られていったり、活動が広く認知されていくと思いますよ。
福井
B to Cにも力を入れていきたいので、幅広く考えたいと思います。 本日はありがとうございました。

佐藤可士和 氏
アートディレクター / クリエイティブディレクター

1965年 東京生まれ。
博報堂を経て「SAMURAI」設立。主な仕事に国立新美術館のシンボルマークデザイン、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブンジャパン、今治タオルのブランドクリエイティブディレクション、「カップヌードルミュージアム」「ふじようちえん」のトータルプロデュースなど。毎日デザイン賞、東京ADCグランプリほか多数受賞。慶應義塾大学特別招聘教授、多摩美術大学客員教授。著書はべストセラー「佐藤可士和の超整理術」(日本経済新聞出版社)ほか。http://kashiwasato.com/