精油とくらし
香りのもたらす働きと機能性
1. 香りのトリビア

香りと歴史

さて、ここから少し私たちが感じている「香りと匂い」の始まりを一緒に紐解いていきましょう。
まず私たちが感じている香り、その文化の起源は古代エジプト人から始まります。
香りのスタートはフランスやイギリスというイメージを持っている方も多くいると思いますが、実は香りの始まりはもっと昔に遡る古代エジブト時代です。
テレビや雑誌などで目にする古代エジプトの文字であるヒエログラフにも記されており、壁画にも香油の使用を認める絵が残されています。

ミイラの保存においても、保存の作業工程で内臓などを取り除いた後に、香料の粉末などを詰め、さらに香油を浸した包帯で巻いていたということなどから、香油の強い防腐作用が働いたことで、現在でも綺麗な状態で保存されていることが認められています。しかし、なぜ古代エジプト人がこの働きを知っていたのか?ということは、とても興味深い点です。

この古代エジプト時代に最も活用されていたFrankincense(フランキンセンス)やMyrrh(ミルラ)などの香料(精油)は、現在でも私たちが活用できるものとして存在しています。
実際のFrankincense(フランキンセンス)やMyrrh(ミルラ)は、木から採られる淡い茶褐色を持つ石のように硬い樹脂です。現在でも、そのままこの樹脂に火をつけて煙を立ち上らせて香りを楽しんだり、水蒸気蒸留法で精油を抽出したり、また中東では口の中に入れてガムのように噛むなど、様々な場面にて活用されています。

さらに、これら樹脂・香料(精油)は、キリストの三賢者の贈り物としても有名な香料であり、聖書にも多く登場するため、世界中でその名が知られている聖なる香りでもあり、教会で感じる神聖な香りです。歴史的にシバの女王がソロモン王にFrankincense(フランキンセンス)を送り、その威厳と価値を示すほどに、人々に崇められていた重要な原料でもありました。
実際にFrankincense(フランキンセンス)やMyrrh(ミルラ)などの香料(精油)は、アロマセラピーの活用の中でも、トラウマや何かに挑戦し、1歩踏み出すためのメンタルサポートに多く活用される香りの1つです。

歴史的に日本においても昔から香の文化もあることは知られていますが、特に白檀(Sandalwood)や樟脳(Champhor)の香り、さらには寺院建立におけるシダーの木の香り(Cedarwood)や、水墨画の墨につけられた香り(Patchouli)などがあります。特に白檀の木は、お香や寺院の香りとして落ち着きと懐かしさをもたらし、樟脳は着物タンスを開けた時に感じる特有の「あの香り」です。大変強い香りを放ち、衣服に虫などが付かないように昔から活用されてきた植物です。このようにすでに昔から日本人にとっても生活の中での身近な香りとなっており、実はこれらの精油も、現在も私たちが活用できるものとして存在しています。
もちろん古代エジプトや日本だけに限らず、世界中の様々な国々にはそれぞれの香りの発展の文化があり、その中で歴史的な植物の香りの活用が人々に与えてきた影響は計り知れません。そして現在にいたるまで、その香りと共に化学的な検証を踏まえた機能性へと繋がってきていることも、私たちが今後香りを活用していく上で大切な視点であることが理解できます。

食事で感じる香り

また、私たちは毎日の生活の中で何かを口の中に入れるときに、必ず香りによって安全に口に運ぶことができるものか、危ないものかを感覚的に判断しています。臭いものや苦いもの、不自然に酸っぱさを感じるもの、いつもと違う味がするものなど、決して見た目だけで判断しているものではなく、そこから放たれる匂いや、まだ経験したことがないような匂いに対して拒否反応を示す感覚です。鼻をつまむと、途端にその食べ物や飲み物の香リや味がしなくなりますよね。
これは嗅覚の働きとして、香りの芳香分子が直接鼻を通るものと、一度口から入って口の中を通ってさらに鼻に伝わるものとして、2つの種類の働きを示しています。
私たちが香りだけを直接楽しむ場合と、食事の香りを直接感じ、さらにそれを食べることによってその香りを二重に感じて楽しむといった2つの経路があります。このことから嗅覚は味覚とも深く関係していることがわかりますよね。そして、もう想像がつくように、香りや匂いの感じ方の違いは、それぞれが育った文化や環境によっても大きく異なってきます。感覚値として私たちの普段の生活の積み重ねによって、その経験値が人生の中でも変化していくのです。
だからこそ、私たちは視覚的な思い出だけではなく、常に香りの感覚の中に「なんか懐かしい香りがする」「なんか懐かしい空気を感じる」といった感覚を常に持っていると考えられ、それが視覚的な場面や思い出と重なることがあります。

同じ香りを
感じ続けると・・・

車の中や家、ある特定の場所などで、ある一定の同じ匂いをしばらく感じる場合に、その匂いをいつの間にか感じなくなるか、非常に弱くしか感じなくなるといった感覚を持った経験はありませんか?私たちの嗅覚は、匂いにさらされている時間に応じて、感覚強度が減衰し順応していきます。しかし、自分にとってわからなくなっても、他人はそれを感じとることができることもあるため、その現象によって時には周りの人を心地よくさせたり、逆に不快にさせたりすることもあります。

また、順応と共に「疲れ」や「嗅覚疲労」といった現象や言葉もあります。
よく一定の香りや強い香りを感じているときに、「鼻がきかなくなっちゃった」「鼻がバカになっちゃったみたい」などという言葉を発しているのを耳にしたことがあると思います。
実は、その感覚の理由は明確に科学的に定義されていません。
人間の嗅覚は、どれほど多くの数であってもその香りを嗅ぎ取る能力があり、それが衰えるといったことを立証できる理由もなく、あくまで個人差と嗜好性(好き嫌いといった感覚)に左右される感覚であると考えられています。例えば、同じ香りを連続で感じることがあっても、そのときに環境や条件、体調、また誰と一緒にいるか、自分の好みによってもその判断に影響すると考えられるため、複雑に色々な原因が絡み合った結果、私たちは一瞬でその反応を「嗅ぎたい香り」なのか、「もういらない香り」なのかを言葉にしていると考えられます。

香りを感じる感覚の
男女差はあるのか

日常生活で活用する視覚や聴覚、触覚などと同様に、嗅覚そして嗅覚力に関しては、どの年代においても女性の方が男性よりも能力が高いとされています。これは女性が男性に比べて化粧品や日用品、そして食べ物や食材に触れる機会が多いため、無意識に毎日の中で訓練されている結果とも予測できます。もちろん男女関係なく、職業や職場環境によっても違いが生じると考えられ、男性であっても特に香りにさらされている日常生活にある場合には、その能力は毎日の中で積み重なっていると予測できます。個人差はあるものの、訓練によってこの鋭敏な嗅覚力を高めることができるとされています。さらに、現代感覚的な観点においては、今後男女差という観点ではなく、生活様式や感覚においてもジェンダレスを軸とした評価が大切になってくると考えられます。

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