精油とくらし
香りのもたらす働きと機能性
3. 香りの働き

天然(自然)香料の精油の働きとその機能性に関しては、大きく分けて3つに分けることができます。私たちが普段香りを嗅ぐということを考えると、まず1つ目は嗅覚(鼻)を通して届くことがわかります。2つ目は皮膚を通して、微量ですが入っていく経皮吸収的な働き、3つ目は呼吸を通して肺へと運ばれ交換される働きです。これは天然(自然)香料と合成香料では、加えられている香りや芳香分子の大きさ、化学構成として異なる働きをしますので、それぞれの活用と調合(ブレンド)された状態での判断が必要なポイントとなります。

香りの働き|
1. 嗅覚からの働き

ここから少し詳しくお話ししていきましょう。
1つ目の嗅覚からの働きは、3つの働きの中でも一番速度が速く、ダイレクトに大脳辺縁系や視床下部(下垂体)に電気信号として伝わることがわかっています。さらに、私たちの生活にも密接した本能的な感情や記憶、ホルモンバランスや自律神経に影響すると考えられています。

アネルズあづさ著「香りを知る・楽しむ・活用するアロマセラピー パーフェクトBOOK」, ナツメ社, pp18-19を元に作図

何気ない生活の中で、香りは私たちの気分を良くしてくれたり、気分転換に役立ったり、眠りをサポートしてくれたり、体調の悪さを軽減してくれたりなど、さまざまな面で影響を与えると意識できているからこそ、普段活用するシャンプーや洗剤、ハンドクリームなどの香りも、自分が好きなものを自然と選ぶようになっていますよね。家族でそれぞれに使い分けているといったようなことも目にしますが、これはそれぞれの好き嫌いといった嗜好性が違うため、とても自然な現象です。

私たちが感覚として受け取る香りは、なぜこれほどまでに心理的な効果をもたらすのか?ということは、実はまだまだ多くの専門家の中でも研究課題となっています。
香りは、人間の喜怒哀楽、心地よい感覚や不快な感覚、また興奮や鎮静(落ち着き)を作り出す大脳辺縁系(古い脳)に影響を及ぼすことがわかっています。そのため、嗅覚を刺激して瞬時に気分などを変化させることは、科学的にも理にかなっている方法だと言えるのです。
嗅覚での感覚値は、感情や記憶などに関わる脳の部分の影響度が大きく、また私たちもこの感情でよく行動を起こし、感情がコントロールできないことでの不具合が生じることで、心身に不調和をきたし、理性を失うことにもなります。

体調や気分によって香りの感じ方が違った経験や、同じものを食べたり飲んだりしても、違うように感じたことはありませんか?

香りが伝わる脳では、天候や高温多湿の環境、朝晩での微妙な変動、月経周期やホルモンバランスによる変化、過労状態や睡眠不足、喫煙時、また風邪や鼻詰まりなど体調を崩した時は、感覚の低下や変化が生じることも予測できます。香りや匂いの感じ方は、こういった影響があるとされていますが、実際にはまだ明確な確固たる見解やエビデンスは見出されていません。

香りや匂いに関わっている大切な場所があり、それは鼻にある嗅上皮という粘膜で覆われている部分です。そこには嗅神経細胞という神経細胞があり、嗅繊毛という毛があります。
その毛の表面には、「嗅覚受容体」と呼ばれる匂いを受け取るためのセンサーがあり、ここでボタンがはまるように、パチっとキャッチされる仕組みになっています。
このようにボタンがはまると、電気信号に変わって脳へと伝達され、記憶や感情、ホルモンバランスや自律神経への大切な司令塔である視床下部にも伝わることで、私たちの心や身体の生理的な変化を生じさせると考えられています。

実はこういった働きは、昔からわかっていたことではなく、嗅神経細胞の表面に、匂いを受け取るためのボタンの役割をする「嗅覚受容体」が無数に並んでいることが発見されたのは1991年で、2004年にノーベル生理学賞を受賞しています。
とても最近の発見なんだなぁと意外に感じる人も多いかもしれません。
それほどまでに、実際に「人間が香りを嗅ぐ」といったことの研究は五感の中で最も遅れてきたと言える分野であり、嗅覚の研究はいよいよこれからなのです。
そのため、これまではあやふやな嗅覚の捉え方や定義も多くあり、2004年以降はどんどん論文数も格段に増え、嗅覚研究に大きな変化をもたらしています。

香りを嗅ぐといっても、私たちは普段様々な判断で香りを選び、「オレンジ」1つの香りをイメージしても、それは決して1つだけではなく、お菓子やアイス、グミ、ケーキから本物のオレンジの果実まで幅広く想像します。
しかし、実際にオレンジは果皮から香りが抽出されるため、全員が1つの香りを想像してもおかしくないはずなのです。それほどまでに、私たちは「香り」をさまざまな形や状態に変化させたものを活用していることがわかりますよね。

最近の検証においても、天然(自然)香料と合成香料の違いとして、もともと自然界に存在している香りや自然の匂いに関しては、同じ自然界に生きている動物として人間が本能的に受け入れることができる、無理がない香りとされていますが、石油由来として人間が作り上げた合成の香り(=もともと自然界には存在しない香り)は、本能的に人間が受け入れる上で、天然(自然)香料ほどに許容範囲は広くなく、感覚値としての反応が異なるのでは?と言われ始めています。これはまだまだこれから検証が必要な研究分野ではありますが、ようやく「人間が嗅ぐ」という働きの不思議が少しずつ解明されようとしています。

香りの働き|
2. 皮膚を通した働き

2つ目の皮膚を通した働きは、天然(自然)香料の精油に関するエビデンスや記述を研究でも見ることができます。皮膚への塗布に関しては、局所マッサージ、湿布、入浴を通しての吸収があります。私たちの皮膚は、なんでも透過するような構造にはなっていないので、精油そのものの特性とその濃度が関係していると考えられています。

この皮膚から通した働きに関しては、実際に医学的な検証としての論文もあります。
精油はそれ自体が脂溶性であり、その多くの成分が迅速に皮膚に吸収されると考えられ、多くの研究が精油の成分が皮膚バリア(角質層)から真皮へと通過することを認めています。
ケアにおいても、足だけ、肩だけといったような部分的な局所のケアでもその結果が見出されていますが、天然(自然)香料である精油には、刺激性や光毒性といった注意事項があるため、間違った使用方法とならないように十分に気をつけなければいけません。また、時には一部の情報だけで過剰に危険性が唱えられているようなものもありますが、それ自体が間違った情報として記されていることもあるため、私たちは十分にその情報の活用方法や取得方法を考えなければいけません。

あくまで使用する年齢や環境、体調や時間、塗布の方法など多くの要因が絡み合って、決して一定に全ての人に対して、同じ働きや同じ容量が血流中に認められるとはいえませんし、実際の生活にあてはめると、とても複雑な状態に変化していきます。
皮膚を通した精油の働きとして経皮吸収に関わる情報は、1つの可能性として、そして使用する上での注意事項として考えるべきです。「自然である香り」「2度と全く同じ香りができない自然物」としての精油を活用する上では、私たちは日常生活の中で最も難しいとされる「健康」そして「予防」をテーマとして、統一化するだけではなく、それぞれに合った有効活用を考えるべきではないかと思います

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3. 呼吸からの働き

3つ目の呼吸による働きは、人体に精油を取り込む方法として最も古くから活用されてきた方法です。歴史を紐解くと、「煙を吸うこと」から始まる「 Perfumeパフューム」という言葉は、「Per煙を」「Fumum通して」という意味から成り立っています。
これは古代から香料の原料となるものに火をつけて、煙を通してその香りを感じ、そして上に登る煙とともに月や太陽の神とコンタクトをしていた古い薬物療法であったと考えられています。そして、その成分は脳や肺に作用していたことを踏まえると、近年でも海外の製薬会社によって、この古い方法が改めて評価されています(Heinemann 2011)。

鼻は嗅覚の最初の窓口でもあり、吸う空気を温めながら、きれいに濾過する機能を同時に持っています。嗅覚を通って次に届く肺は、空気の交換をするための巨大な表面積を持つ、生命に重要な臓器です。香りには1,8シネオールという成分がありますが、これは多くの精油に含まれている成分で、非常に低濃度でも大きな効果を見出すことがすでにわかっています。同時に、去痰作用や免疫強壮、また咳などを鎮めるための評価が高く、海外ではウイルス性の気管支炎感染の治療にも用いられるなどしてきました(Ben-Ayre et al 2010)。これが、実際に私たちが香りを嗅いでスッと感じるローズマリーやミント、ユーカリの精油などが呼吸関連に多用されている裏付けとなっています。なんとなくスッと爽快感があるという以上に、このような理由が隠されていたのです。

香りと女性と健康

厚生労働省における女性の健康推進室においても、30代から40代にかけて、月経関連の問題(月経困難症、月経不順、無月経、月経前緊張症候群、月経前不快気分障害)、子宮内膜症や子宮筋腫、子宮頸がん、妊娠、出産、不妊、乳がん、甲状腺の病気、摂食障害またそれぞれに付随したメンタルの不調和や自律神経のバランスを崩すといった症状が顕著に現れ始めてくるとされています。

また50代にかけてさらに更年期症状なども始まりますが、現在は家庭内外問わず働く女性や働き続ける女性が増加し、IT環境の変化や求められる職務の変化、女性の勤続年数が伸びる中で、それぞれの健康課題やQOLの維持をどのように取り組んでいくか?がヘルスリテラシーと環境づくりにとても重要だとされています。

2014年の調査においては、20〜39歳までの女性において「いつも不安を感じる」と答える割合が年齢別で最も高く、25%近くを占めています。また2019年の調査においては、悩みやストレスがある者の割合を性別にみると、男性43.0%、女性52.4%で女性が高くなっており、年齢階級別にみると男女ともに30代から 50 代が高く、男性では約5割、女性では約6割となっています。また、喫煙率の割合が20〜39歳までで徐々に増え、40〜49歳が最も多い値を示す結果となっています。

コロナ禍を経て、さらにメンタル面での不調和が増加していることは明白であり、心が身体に影響を与える部分、そして身体が心に影響を与える部分の両面に対してのケアが必要な時代に入ったと感じている人も多いのではないでしょうか。
私たちがセルフケアとしての予防や健康を考えるとき、治療でもなく、それは一時的な効果や役割ではなくて、自分の心と身体の素地となる免疫や循環、自律神経バランス、そしてホメオスタシスの機能など、総合的な役割やバランスが大切です。
そして、続かない方法ではなかなか健康や予防を積み上げることができません。何よりも継続性と持続性の維持が大きな取り組み課題となってくることは、誰もが感じていることですよね。

この予防に必要なことは文字や頭ではわかっているのが私たち大人ですが、それを実際に日常生活でどのように実行できるか?は、リアルに簡単ではないため反省すべき点ですよね。 子供たちには「これをしなさい」と簡単に言える大人自身が、理解していても自分のためにできないことの1つであることにも気づかされます。香りは日常生活の中で、意識しながら、もしくは無意識的に取り込んでいるものですが、その仕組みをより良く理解することによって、ファッション性から一歩進んだ予防と健康に必要な香りとして、楽しく心地よい活用を続けていくことができます。

これまでお話をしてきた様々な香りの特性を考えた上で、私たちに備わっている「嗅覚」をどのようにうまく活用できるか、そしてその研究はまだ始まったばかりの未知的な可能性を秘めているという理解をお伝えしてきました。本能的な感覚からの心と身体のケア、自分では意識的にコントロールできない自律神経とホルモンバランスへの関連性など、今後香りが私たちにもたらす可能性に大きく期待していきたいと思います。

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